先日、『南充浩氏の繊維産業ブログ』のなかで、GAPの値下げに関する記事が、なかなか業界の価格設定を考えさせられるものであった。



長年GAPを見て来て疑問に思うのが、どうして定価設定を下げないのだろうか。
どうせ定価では売れないのだ。利益確保もクソもない。

9900円が1900円にまで下がるからすでに定価に信用がない。
GAPは少なくとも半額になってから買うという消費者の方が多いのではないか。
だったら最初から今の半額を定価設定にすれば良いのではないか。
その方が消費者だって定価設定を信用してくれやすい。

中略

他のグローバルSPAや低価格SPAと比較しても、GAPの価格政策は異様であり、これが上陸後長年続けられていることに対して理解に苦しむ。
数あるグローバルSPAの中で、日本国内で真っ先に凋落するとすれば、それはGAPではないかと思って生暖かく見ている。

GAPは定価設定を見直すべき:『南充浩氏の繊維産業ブログ』



なぜGAPはそのような価格を下げる事が可能であるのか?

それは定価にたいしての原価率が低いからだと容易に予想できますし、あくまで憶測であるが、原価率は15%〜20%位ではないだろうか?

つまりこの話は言葉を換えれば、「原価率を見直すべき」という話である。

ただGAPの場合アメリカ本国よりも、日本の定価が5割り増しという「ちょいセレブ使用」なんですよ。

仮に日本の原価率を20%にした場合、アメリカ本国の定価に対する原価率は30%であり、これはグローバルSPAとしては正常の数値である。

いかに、日本での定価設定が高過ぎるということを物語っていますよね。

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私もアパレルの仕事をしている立場から、「洋服の原価率はそもそも、どうあるべきなのであろうか?」よくよく考えることがある。

そう、その前に商品の定価はどうやって決まるかを概略してみましょう♪

一般的に物が売れた値段を売価といい、その売価から原価を引いた残りが、粗利になります。

粗利からは店舗の家賃、光熱費、人件費、広告費その他もろもろの諸経費や税金を引かれたものが、純利益、つまり本当の儲けになる訳ですが、その儲けを出す為に最初の売価設定、つまり定価設定をするのです。

その為には、自社SPAオリジナル商品の場合、通期で50%を切る粗利は避けたいところだか、原価率が低く過ぎても製品上の信用性がなくなる。

そう考えると、私などはセールで30%OFFしても50%の粗利率が期待できる原価率35%のラインを基準に多少乱暴ではあるが、品質上適正であるとか、暴利であるという判断も出来なくもない。

ただし、例外として高くても売れるメジャーなラグジュアリーブランドを除いた話ですけどね。

しかし、原価率は仕入れコストや工賃によって改善出来るものであり、予測した売価の推移で売れるかどうかは商品のセンスの要素が大きいので、一概には断定できないが、「原価率35%」を一応の目安として考えたい。

ちなみにH&Mの原価率が25%程度、ODM依存国内大手カジュアルSPAのそれが28%程度、老舗国内大手ブランドのKが30%程度なのに対してユニクロは自社開発・自社生産管理で巨大ロットなのに38%程度と極めて原価率が高い。


つまりファーストリテイリングという会社がユニクロというブランドの「低価格、高品質」イメージを維持していく為には高めの原価率を設定する必要があるのです。


「低価格、高品質」ということをさらに進化させたビジネスモデルがある。

元ヴァンヂャケットの貞末良雄氏が1993年の創業した「鎌倉シャツ」である。

原価率59%、綿100%の100番手(糸の細さ)素材、天然の貝ボタンを使用し、日本国内で縫製。そんな高品質のドレスシャツを4,900円という廉価で提供している。

この原価率59%は驚異的である。前提としては一切セールを実施しないで、消耗品であるドレスシャツに絞りこんで、高品質なものを安定して供給している。

それは粗利率よりも、回転率を高めて粗利高を重視したビジネスモデルである。


・上質なシャツを誰もが気軽に買える値段で提供することで「日本人のお洒落」を誘発する

・男女の区別なく国際社会のビジネスにプライドを持って着用できる正統派シャツを作る
 
 という創業の思いを忘れず、

・優れた商品を、適切な価格と真当な方法で提供することで、顧客に利を与え

・適正な価格や、真当な支払条件で取引をすることで、協力業者に利を与え

 ・結果として、自社も利を得る

そんな「利他の精神」を貫くこと。

引用:鎌倉シャツ 魂のものづくり


鎌倉シャツのような「高品質、適正価格」を企業理念が社風として染み付いている、会社の商品というのは必然的に高い原価率になるはずである。

鎌倉シャツ 魂のものづくり
丸木 伊参
日本経済新聞出版社
2014-06-21





ただ定価と違い、原価というものは表には見えないものであり、企業としては表向き、公けにはしていないものである。

我々のようなアパレルに属している者でも、生地とか縫製をみても正確にわかるものでもはない。(なんとなくは想像できるが…)

低い原価率を設定している商品の見分けかたとしては期中、セール初頭に30%を越える値引きをする商品は、不振商品であることは間違いないが、原価率が極めて低い可能性が高い。

さらに、常に大幅な値下げを売りにしているブランドは原価率をかなり低く設定している場合が多い為
「お買い得感」があっても、実はそうではないことを充分理解してもらいたい。

今回は自社SPAの洋服の話でしたが、靴、バッグのアイテム、日本独自の委託システムやセレクトショップの別注商品、インポートブランドは全く原価率が異なる話なので、またの機会に❗️


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